例えば危ない橋だったとして
やや照れながら、しどろもどろで答えると、黒澤くんは静かに微笑んだ。
「まぁそれで、特に大学くらいから諦め入ってたから、寄って来る女の子と付き合ってたけど、それもしばらくしたらフラれる」
「……何で?」
「……榊は俺に『仮面被ってる』って言ったよな。そういう仮面の俺を良いと思って来るから、期待に応えようと振舞ってるのに『何考えてるかわかんない』だの『気持ちが感じられない』だの言われて」
「…………」
何でも出来る完璧な黒澤くんが、そんなやり切れなさを抱えていたなんて……目頭が熱くなってしまった。
彼の頭をそっと撫でた。
黒澤くんは苦しそうに表情を歪めた後、その面持ちを隠すようにわたしを抱き締めた。
「ちょっと、これ恥ずかしい話だって言っただろ。泣ける話じゃないから……笑い飛ばしてよ……」
「……全然笑えないよ……切ない話だよ」
黒澤くんの腕の中で、涙が零れてしまった。
わたしの髪に、黒澤くんがキスを落とす。
「……でも、榊のことは諦め切れなくてさ。異動して来た時、こんなチャンスはもうないって思った。正攻法で行ったらフラれるだろうなと思って、キスした。それでも俺の武器は外見しかないって感じてたから」