例えば危ない橋だったとして

「……き、聞きたくなかったらごめんね……? 元彼が……」

皐がやや目を見張ったが、続けた。

「……自分の痛みは、自分で解決しろって人だったから……。重いこと言って嫌がられるのも嫌だったし……本当のわたしを見せたら、拒否されるかもって、ずっと、ずっと……」

溢れ出てしまいそうな涙を、堪えた。
此処で泣くのはずるい気がしたから。

皐の右手が、わたしの左手を取った。
そして左手が、頬に添えられる。

「……涙、我慢しなくていい……」

優しい瞳が、わたしを見つめている。
そんなに優しくされたら、全部皐に甘えてしまう。
ひとりで立てなくなる……。
目尻に、涙が滲んで来た。


「……俺、痛みを分けてって言ったよ。拒否なんかしないし、全部見せて」

甘えても良いのかなぁ……?
涙が零れ落ちて、皐の掌を濡らした。

「……ずっと、一緒に居て欲しい……」
「……うん。ずっと一緒に居るよ」

わたしは持てるだけの勇気を振り絞って、続けた。

「……日曜日、本当は……親に会って欲しいって、言ってしまいそうだったんだ……。居心地、良過ぎて……でも付き合ったばっかでこんなの、重過ぎだって……」

話しながら、怖くて瞼を閉じてしまった。
恐る恐る目を開けると、皐が意表をつかれたような顔をして、言葉を失っていた。
あ……やっぱり重いよね……。気持ちが落ち掛けたその時、皐が口を開いた。

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