例えば危ない橋だったとして

皐の舌を受け入れていると、胸元に指の感触を把握した。
押しのけようと、皐の肩に突き立てた掌に力を込める。

「ちゅーだけってっ……言ったのに……! 嘘吐きっ」

唇が離れた隙に、顔を背け言葉を絞り出す。
皐は動じずに、わたしの身体を弄り続けている。

「お父さん達いるから……こらっ! やめなさいっ! 皐!」

脚をじたばたと動かしながら、叫んだ。

「さっちゃん!!」

皐の動きがぴたりと止まった。
あれっ……効いた?

皐がわたしから身体を離し、項垂れ始めた。

「……さっちゃんは、やめろ……。ガキの頃、女みたいな顔と名前だって、そう呼ばれてた……」

皐の弱点、得たり! ……って、ガキの頃?

「子どもの頃の皐!! 見たーい♡♡」
「…………じゃ、うち来る?」

皐の粗相に困惑していたことも忘れ、途端に目を輝かせてしまったわたしを、後ろから抱き寄せた。

「来週、丁度月命日だし、線香上げてやってよ……」
「えっ……そんな大切な日に、わたしなんぞがお邪魔しても良いの……!?」

「喜ぶと思うよ」

そして彼を見上げているわたしの頭を撫で、「ごめん、やりすぎた」と小さく呟いた。
わたしは皐の腕の中で、一気に押し寄せて来た様々な感情に翻弄されていた。

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