例えば危ない橋だったとして
それなのに──
どうしてわたしの心に入り込んで来るんだろう。
わたしは釈然としていなかった。
何故キスしてきたのか、週末の間考えた。
本人は「酔ってない」と宣言していたが、実際には酔っていたのでは?
もしくは、黒澤くんはキス魔なのでは!?
そうか、「ズレてる」と言っていたのはこれかぁ。
わたしはその想像に納得しようと、組んでいた腕をほどき、閃いたように顔を上げた。
……だって、そうでもなきゃ、黒澤くんのような選び放題の人が、わざわざわたしを選ぶなんて……
そんな都合の良い話、ないでしょ。
それとも、何か裏があるとか……
わからないけど、何らかの企みのために利用されたとか!?
「おはよ」
エレベーターを降りた廊下で、妄想世界にトリップし頭を抱えていたところ、後ろから聞き慣れた声がした。
「おっはよう」
おののいて声が裏返ってしまった。
声の主はもちろん、今日も全身完璧オーラを放っていた。
「すっきりしない天気だな」
黒澤くんはエレベーターホールの全面ガラス張りの窓の外に目を向けながら、いつも通りに話を振ってきた。
「そうだね……週末はあんなに綺麗に晴れて……」
言いかけたその時、金曜日の別れ際の出来事が脳裏をフラッシュバックしてしまい、途端に顔が熱くなって来た。
「あ、わたしトイレ寄ってく」
赤くなって、意識していると黒澤くんにバレてしまうのが癪で、逃げてしまった。
何か唐突に言葉を切ってしまった気がする。
これはこれで、避けているのがモロバレでは? とトイレに入る前に気付いた。