例えば危ない橋だったとして

皐とは、バレンタインの直前の土曜日から、またデートをする約束をしている。
夕方の待ち合わせだが、金曜日の夜にチョコレート作りに取り掛かることにした。
万一失敗しても、土曜日にやり直すことが可能だ。

チョコレートを作るなんて何年ぶりだろうか。
淳と付き合っていた時に一度作った記憶があるが、少なくとも数年ぶりである。
皐は甘い物はそんなに好きではないようなので、レシピよりも多少甘さを抑え計量した。

「……出来た……!」

トリュフに粉砂糖を振り掛け、何とか形になったチョコレートを、満足気に眺めた。
その中のひとつを手に取り、口に放り込む。
うん、わたしにしては上出来だ!

お母さんが後ろから楽しそうに覗き込む。

「私の分もある~?」
「うん、今年はお母さん達の分も作った!」

「お父さん喜ぶわね~去年とか何もしなかったんだからー」

去年か……確かにわたしは恋愛沙汰から遠ざかり、干物化していた。
自分の殻に閉じ篭っていた。
1年前はこんな未来、想像も出来なかったよ。ねぇ、皐。

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