例えば危ない橋だったとして

秋。

入社し研修後に配属された、2年半お世話になった部署を離れ、最初の局面。

「10月1日付けで異動して参りました、榊 一千果(さかき いちか)と申します。今までの部署では──……」

挨拶を終えお辞儀をした顔を上げると、3メートル程向こうに頭ひとつ飛び抜けている見慣れた顔があった。
同期入社の黒澤くんが、穏やかな微笑みを浮かべ拍手している。

課長や社員の方々と簡単に立ち話をした後、黒澤くんと対面した。

「まさか榊が同じ部署に配属されるなんてな。基本の指導は俺がすることになると思うから、よろしく」

差し出されたその手を握り返し、目の前のキラキラした人を見上げた。

相変わらずのそつのない振る舞いと、その整った顔立ちで完璧な笑顔を浮かべる。
なんて眩しい……わたしは目を細め思わず顔を背けそうになってしまう。

黒澤 皐(さつき)くんは、同期入社の中でも群を抜いてルックスの整った人だ。
背が高く細身で、漆黒の黒髪に切れ長の瞳、スッと通った鼻筋に薄い唇。

細かいこだわりの伺える、センスの良いスーツを着こなし、颯爽と歩く姿に女子社員達が次々に振り向く。
彼を狙っている女子達が色めき立つのだ。

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