例えば危ない橋だったとして

「！？」

先程から皐の肩や腕を必死で押しているが、びくともしない。
何なのこれ……何でこんなこと……。

唇が離れると即座に顔を背け、叫んだ。

「皐！ どうしたの……？ 何で会社でこんなこと……」
「…………覚えてたいから……」

覚えてたい……？どういう意味……。
話しながら、わたしの目元には涙が滲んでいた。

涙に気付いた皐が、手を止めて立ち尽くした。
わたしは力が抜けて、ずるずるとその場に座り込んだ。

「……ごめん……どうかしてるな、俺……」

わたしは言葉もなく、目は虚ろだった。

「……頭冷やす……」

皐はつぶやくと、踵を返し出て行ってしまった。
その光景を、呆然と眺めていた。

あまりにも突拍子もない出来事に、何が起こったのかよくわからなかった。
だけど涙は後から溢れて来て、嗚咽を漏らした。

「うぅ……っく」