例えば危ない橋だったとして
その声は割合大きく、周囲の人達の手が止まり、沈黙が流れた。
「……ごめんなさい」
わたしは目を見開き、それだけを精一杯口に出した。
震える手をぐっと握り、係長の元へ向かった。
まだ後任は決まっていないと確認し、田浦さんへ伝え、電話を置いた。
恐る恐る横目で皐の方を盗み見ると、彼の姿はなかった。
「何か出て行ったよ」
声を掛けられ振り返ると、岩井さんが立っていた。
「黒澤くんがあんな声荒げる所、初めて見た。……どうしたの、喧嘩?」
岩井さんが声を潜め、わたしに耳打ちする。
「……いや……すみません、お気遣い頂いて……ありがとうございます……」
笑顔を作ったが、涙を堪えているのをきっと見抜かれてしまった。
「……気にすることないと思うよ」
少し眉を下げわたしに微笑み、席へ戻って行った。
わたし、そんなに皐を当てにしてた……?
自覚がないだけで、そうだったのかもしれない……。
岩井さんの励ましも虚しく、わたしはそのまま仕事を続けることが出来ず、トイレへ向かった。