例えば危ない橋だったとして

もうわたし達は、付き合う前のすれ違っていたわたし達じゃない……。
付き合う前から皐のことを好きだったけれど、付き合ってからたくさんの意外な面を知って、もっと好きになった。
甘えてくるところ
感激屋なところ
子どもっぽいところ
純粋なところ
男らしいところ……

皐との想い出が、次々と脳裏に蘇った。
そう巡らせていても、やはり心臓は高鳴っていたが、皐のペースに呑まれないと決めて席に戻った。

皐は何事もなかったかのように仕事をしていた。
わたしの方には、振り返らない。
意識して避けているかのような、空気が漂っている気がした。

わたしは周囲をシャットアウトして、必要以外は会話をせず黙々と仕事に臨んだ。
案外集中することが出来て、自分でも驚いた。
皐と会話する必要のある仕事はなく、そのまま1時間の残業を終えた。
書類とデスクを片付け、辺りを見渡すと、皐も間もなく帰ろうとしている様子だった。

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