例えば危ない橋だったとして

しまった……また逃げ場を奪われてしまった。
太ももの裏のスカートが、デスクの端に触れている。
身体の前には、覆い重なりそうな黒澤くんの身体。上半身を仰け反って、距離を取ろうとすると、その分距離を詰められる。

「素の俺なんて見たくない? こんなのイメージじゃない?」
「ちょっと、どうしちゃったの……?」

出来るだけ冷静に口にしたつもりだったが、少し語尾が乱れてしまった。
目の前には、黒澤くんの瞳が揺れている。
強気な態度とは裏腹に、何か切なそうな色を帯びている気がした。

こんなイケメンにこれだけ近寄られたら、どんな女の子だってドキドキするだろう。
今、心臓が音を立てているのは、それだけの理由だ。

「待って……」

わたしの言葉を無視して、黒澤くんの顔がどんどん近付いて来る。
逃げられない……そう感じて唇を噛み締める。
この後起こることを想像して、目をぎゅっと瞑った。

黒澤くんの唇がまた、わたしの唇に触れた。

< 23 / 214 >

この作品をシェア

pagetop