例えば危ない橋だったとして

水曜日のノー残業デー、久しぶりに前の部署で一番仲の良かった更(さら)ちゃんと飲むことにした。
更ちゃんこと更谷薫(さらたに かおる)は、一年後輩で、きゃぴきゃぴしているようでいて実はしっかりしていて、物事の判断が的確だ。

お互いのビルの中間地点くらいの場所にある、洒落たイタリアンレストランで待ち合わせした。


更ちゃんはキールロワイヤルを口に運びながら、わたしの話を聞くやいなや、素っ頓狂な声を上げた。

「えぇっ!? 先輩、王子とそんなことに!?」
「……王子って、あんた……」

「だって、あんなキラキラした人なかなかいないですよ!? 写真でしか見たことないけど」

更ちゃんは頬に手を添えつつ、うっとりと空中を眺めた。
これが世の大半の女子の反応であろうか。
わたしは彼との関係が、彼に心ときめかせている女子社員達に知れてしまうことを思うと、ゾッと青ざめた。

「ねぇ、わたしどうしたらいい……? 悪い予感しかしないんだけど」

頭を抱えるわたしに、更ちゃんは少し考えてから口を開いた。

「……まぁ、今のところバレる可能性は低いんじゃないですか? 一緒に飲んでたって同じ部署なんだし別に……やっかむ人はいるかも知れないけど、そんな外野は放ってたら良いんですよ。話聞いてたら何となく、黒澤さんが相手にしてなさそう」
「そう……かな。確かに特段仲の良さそうな子もいないような……」

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