例えば危ない橋だったとして
加えて仕事ぶりは真面目かつ厳しく、丁寧な対応で、上司にも評判が良いようだ。
このまま行けば順調に出世コースを歩んでゆくに違いない。
わたしがそんなことを考えている間にも、黒澤くんに課長が声を掛け、相談を始めた。
「昨日の建物名変更の件だけど、係長が渋い顔していてさ。社員達の意見総括して説明してくれないか」
「わかりました」
黒澤くんが受け答えしている様子に感心しながら、わたしは勝手に妄想を巡らせる。
これくらい完璧な人なら、恋人にも完璧な立ち居振る舞いを見せるんじゃないか……と。
いつも相手を気遣い、笑顔で、優しく、怒らず、よくある押し付けや無理強いなどもってのほかで……
うん、こんな人が彼氏なら、いても良いかも……と緩みそうになった頬を、慌てて引き締める。
普通の顔立ち、普通のスタイル、普通の身長、普通のセンス。
全てが普通のわたしごときが黒澤くんのようなパーフェクト男子に対し『彼氏でも良い』とは、図々しいにも程があるが、頭の中では何を考えたって自由だ。
どうせ彼氏なんて作る気がないのだ。
「挨拶周り終わったら、説明してくから」
今度はわたしが課長に呼ばれたと同時に、黒澤くんが残して行った一言で、現実に引き戻された。
妄想世界にトリップしてしまうのは、わたしの悪い癖だ。