例えば危ない橋だったとして
わたしは黒澤くんの交流関係を思い出す。
寄ってくる女子に、笑顔で壁を作ってシャットアウトしているような印象だ。近寄り難い雰囲気というか……。
「でも、黒澤さんってちょっと変わった人っぽいですね」
「そりゃー、わたしなんかにちょっかい出してる時点で」
「そういうことでなくて。何だろう……敢えて正攻法を使わないのは、もしかして先輩が彼氏作る気ないのが知れているんじゃ?」
「えっ何で!?」
会社の人には、更ちゃんと同期の一部の女の子以外誰にも言っていない。
同期には口酸っぱく口止めしてあるし……黒澤くんに筒抜けになるとは考えにくい。
「知ってたら余計わたしなんか相手にしないんじゃ……」
「逆ですよ、だからこそ本気で付き合いたいか、本気で落としたいかのどっちかかなって」
「……それ、どう違うの?」
「なんか手強い相手を落とすことに燃えるタイプの人いますよね」
更ちゃんは、ふうっと溜息を吐いて髪を掻き上げた。
ストレートの綺麗な黒髪が揺れる。
くせ毛を誤魔化したくてパーマをあてている、わたしの栗色の髪とは大違いだと、目に映る光景を眺めた。
そして目の前の、泡が弾けるシャンディガフのグラスに視線を落とした。
「黒澤くんってそんな奴なのかな……」
「いやっ、可能性の話ですよ?」
更ちゃんはわたしがショックを受けたと見て取れたのか、すかさずフォローを入れた。
「違うの、黒澤くんって何か……寂しそうな感じがする」