例えば危ない橋だったとして
2回目のキスをした時の、寂しそうな瞳が、脳裏に焼き付いている。
わからない。昼間感じたことも含め、わたしの妄想に過ぎないかもしれないけれど。
「……先輩なら、寂しさをわかってあげられるんじゃないですか?」
「そんなことないよ……」
うっすらと微笑んで返した。
更ちゃんは、サーモンマリネをつついていた手を止め、真面目な顔で続けた。
「先輩、ずっと恋しないつもりなんですか?」
「……どうかな」
「今はまだ25歳で、平気かもしれないけど……色々持ってる荷物を、分けられる人が居てくれたら良いなって、私は勝手に思ってるんですけど」
わたしは彼女の言葉を少し反芻してから、空になったグラスを挙げておかわりを注文した。
「先輩、今日はありがとうございました~美味しかったですねっ」
あの後、散々彼氏の愚痴とのろけを交互に吐いていた更ちゃんは、ほろ酔いで上機嫌だ。
「うん、ありがとー。気を付けてねー」
別々の駅に向かうため、大通りに出た所で手を振って別れた。
ひとりで歩き出しながら、わたしは更ちゃんの言葉を考えていた。
そして、黒澤くんが本気なら、本気で応えないと失礼だとも思った。
だけど……わたしは自分で自分をどう取り扱って良いかがわからないんだな、と薄々感づいていた事実に瞼を伏せた。