例えば危ない橋だったとして
わたしは棚を眺め歩きながら、気付いた。
また、ふたりきりになってしまった……!
仕事だから仕方ない。断るのもおかしい、公私混同だし。
仕事中だもん、さすがに何も起こらないよね……?
わたしは棚の隙間から黒澤くんを盗み見た。
真剣な横顔は、息を呑む程綺麗。
黒澤くんの目線が、こちらに向かって来た。
気付かれた!? 慌てて視線を逸らす。
特に反応はなく、黒澤くんは再び棚を眺め始め、わたしは胸を撫で下ろす。
それにしても、あまり手入れされていないのであろう、どのファイルも埃っぽくて出来れば触りたくない代物だ。
黒澤くんが、棚の周りを曲がってわたしの居る列に差し掛かろうとしたその時、スーツの裾がファイルを撫でて通った。
「あ」
声を上げた時には遅い。
口をあんぐり開けたわたしの顔を見て、黒澤くんが呆気に取られていた。
「えっ何?」
「裾っ。あーっもう真っ白なっちゃった! どうしよ、拭くもの……」