例えば危ない橋だったとして

「待って……! 今、仕事中だし……!」

シンと静まり返り数秒、黒澤くんが口を切った。

「……あった」
「へっ?」

何が?
きょとんとした表情で次の言葉を待った。

「ファイル、あった」

黒澤くんの視線は指を突いたファイルへ向かっている。

「あっ!? あぁ、ファイルねっ! ごめんっわたし邪魔だったねー!」

飛び退こうとした瞬間、もう一方の手も棚に突き立てられた。
黒澤くんの腕の間に挟まれて、身動きが取れない。

「……仕事中じゃなければ良いってこと?」

不敵な笑みを浮かべた黒澤くんが、わたしの後方の壁にチラッと視線を送った。
次の瞬間、昼休みを告げる鐘が鳴り響いた。

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