例えば危ない橋だったとして

予告通り、挨拶周りの後、黒澤くんは隣の自分の席からわたしのデスクに椅子を移動させて座り、システムをいじっている。
イケメンの距離が近過ぎる。毛穴まで見えてしまいそうで、気恥ずかしくて、平静を保つのが大変だ。
そして、フロア内の女子社員の視線が突き刺さる気がする。
わたしなんて黒澤くんとどうこう考えていないから気にしないでくれ、と念を送ってみる。

「設備の仕事は初めてだよな」

わたしは頷き、メモ帳を開く。

「これが設備選定システム。電柱の線路が地図上に張り巡らされてる。線路はわかる?」

「電線が張られてる道筋の事? だよね?」

「まぁ、そうだ。電柱と電線を含めて線路。で、使用する場所に対して地図を見ながらどの設備を割り当てるかを決定して、システムに登録するのがこの部署のベースの仕事」

前の部署では、書類作成などの一般事務のような仕事が中心であったので、専門的な仕事にやや不安もあったが、新しい世界に飛び込むワクワク感でいっぱいだった。

早速、基本の設備住所登録の方法や、システムの項番を教わる。
目の前にマウスを握る骨張った手。
いくら恋愛する気がないとは言え、こんな格好良い人に至近距離に入られると、嫌でも意識する。

しかし、その後は説明に付いて行くので精一杯で、そんな煩悩は何処かへ散った。

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