例えば危ない橋だったとして

壁にもたれかかりながら、ベッドに脚を投げ出して座り、枕を抱えた。
思った通りだ。やっぱり、生活に支障が出ている。
今なんて別にキスしただけなのに、この有り様。溜息が漏れた。
パーマのかかった髪を、人差し指でくるくるといじりながら、物思いにふける。

黒澤くんはどういうつもりなんだろう……本気でわたしと付き合う気なの?
だけどわたしは……淳との最後の辛い日々が、頭の中を駆け巡り、瞼を伏せて眉間を寄せた。

わたしは、黒澤くんと付き合う気なの?
わからないのに、受け入れてしまった。

今になって、罪悪感が心の底から浮かび上がってくる。
どうしてあんな熱いキスを交わしてしまったんだろう。
思い出すと、顔から火が出るようで、ベッドをゴロゴロ転がってしまった。


しかし、このような関係になってしまった以上、今さら逃げていても無意味なんじゃないか?
もしも黒澤くんが遊びのつもりなら、手を引くのは今だ。
黒澤くんの真意が知りたい……。

翌金曜日、仕事中も時折、彼の表情を注意深く観察してみたが、やはり普段通りでわたしだけが意識しているようだった。
今日も完璧な仮面を被っているということだろうか。
そんな彼の様子に段々と馬鹿馬鹿しくなり、昼からは集中して仕事に取り組むことが出来た。

終業の鐘が鳴る。
この調子なら、元の自分に戻れる? と淡い期待が過ぎったが、そんなことは有り得ないと気付く。
何故ならこの男は、そんなわたしの隙を付いて豹変して来るのだ。
どうしたものか……黒澤くんに横目で視線を送っていると、その顔が振り返った。

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