例えば危ない橋だったとして
そういえば、ご家族から電話が掛かって来ていた。
「黒澤くんは、実家なの?」
「うん、榊は?」
「わたしも。あ、黒澤くんいきなりだったけど、お家大丈夫だった?」
「……うちは男ばっかだから、金曜は大体付き合いもあるしさ」
男ばっか? お母さんが居ない?
気になったけれど、突っ込んで聞いても良いものか迷い、やめた。
わたし達、そんな深い話をする程の仲でも無い気がするし……。
……じゃあ、どんな仲なんだろう。
「つーか、誘われなくても榊に声掛けるつもりだったし」
考えていると、黒澤くんがまた思わせ振りな台詞を吐いて、にっこりと微笑みを浮かべた。
うろたえる気持ちを外に出さないように、必死で自制した。
「あ、このクリームチーズのフリット食べたいな、わたし」
メニューを指差し誤魔化してしまった。
運ばれて来たビールで乾杯をして、取り留めもない仕事の話や部署内の人達の話へと移行した。
わたしは当初の目的がよくわからなくなって来ていた。
仕事の話をしていても、黒澤くんの化けの皮は剥がれないのでは……と思い至った。