例えば危ない橋だったとして
しかし、何をどう話して良いか具体的な案があるわけでもなかった。
これまでの黒澤くんとの関係は、はっきり言って受身だった。
そもそもいきなり攻めの姿勢に回れないから、黒澤くんに主導権を取られるような事態に陥っているのでは……。
探りを入れるつもりが、あまりにも無計画過ぎたと後悔した。大失敗だ。
「それ以来、岩井さんは彼女が居ないらしくて」
「うそー、あはは~」
わたしの生返事に気付いたのか、黒澤くんが黙ってテーブルを見つめた。
うわの空が過ぎたのだろうか、怒ったような表情にも見受けられた。
そりゃそうだ、自分から誘って来ておいて、ろくに話が頭に入らないなんてどういうことかと、自分でも思う。
わたしは必死で次の言葉を探した。
何を言えば良いのか……話に身が入っていなかったことを謝るべき?
違う気がした。たぶん、話に身が入っていなかった理由を告げるべきだ。
それはもちろん、黒澤くんがわたし達の関係に何を求めているのかが気になっているから、だ。
黒澤くんは、わたしのこと好きなの?
ふいに頭に台詞が浮かんだが、そんなこと聞けるわけがない。
じゃあ、何て言えばいい……?
すると黒澤くんが、耐え兼ねたように口を開いた。
「……あのさ」
わたしはビクッと身が縮こまるようだった。
この感覚は、身に覚えがある。