例えば危ない橋だったとして

淳だ。彼は、わたしが押し黙ると、決まって声を荒げたのだ。

『その黙るのやめろよ! いい加減にしてくんない!?』

頭の中を、彼の声がエコーしているような感覚に襲われた。

わたしは片手で頭を押さえながら、歯を食いしばる。
落ち着いて……目の前の人は、淳じゃない。
小さく息を吐き出しながら、黒澤くんの胸元から顔へとゆっくり視線を移した。


「言いたいことがあるなら、言ってくれて良いよ」

黒澤くんはわたしを真っ直ぐに見据えて、予想外の言葉を口に出した。
わたしの目に浮かびかかった涙は引っ込んでしまった。

え……?
どうしてこの人、そんなこと言ってくれるんだろう。
それを聞いて、黒澤くんに何かメリットがあるのだろうか。

「あの……どうしてそんなこと言うの?」
「え? 話があったんじゃないの?」

確かにわたしのあの誘い方は、話があると感じるだろう。

「それを聞いて、黒澤くんが得するとは思えないんだけど、聞いてくれるの?」

黒澤くんはわたしの返事を聞くなり、怪訝な顔をした。

「榊は、俺が損得で動いてると思ってるの?」
「いやっそういうことじゃなくて……」

わたしの顔は熱く高揚して来ていた。
こんなこと、遊びだったら言わないよね?

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