例えば危ない橋だったとして

「お疲れー」

「お疲れ様でした~……」

今日はノー残業デーだ。
皆が浮き立って帰って行く中、わたしはへろへろになって1日を終え、デスクに置いた鞄の上でうなだれる。
すると視線の先に、コンと音を立て缶コーヒーが置かれた。
コーヒーから離れた手を辿り見上げると、黒澤くん。

「まぁ、今日はさっさと帰って早く休んだら」

自分の分の缶コーヒーに口を付けた後、労いの言葉を掛けてくれた。

「ありがとう。いただきます」

気遣いまで完璧……
コーヒーを啜りつつ、デスクにもたれかかっている完璧星人を眺めた。

何かこの人の本性を見てみたい衝動が沸き起こる。
そんな、本当に非の打ち所のない人間なんか、信じてない。
絶対何かあるはず──


駅前まで黒澤くんと歩いた。
別の線を使っている黒澤くんと別れ、階段を下りながらわたしは黒澤くんとの思い出を辿っていた。

わたしたちの関係は、同期の仲良しグループの一員、という表現が最も適切だろう。
内定が決まった頃から研修などで一緒になり、自然と仲良くなった。
入社した頃は、夜桜見物でどんちゃん騒ぎもしたなぁ。

でも、皆で集まって飲み会したりはするけれど、取り立てて仲が良いという訳ではない。
あくまでも、その中のひとりに過ぎない。

もちろんふたりで食事などもしたことがないし、本性を垣間見れる程の親密さはない。
そういえば、恋人がいるのかどうか、なんかも知らない。
まぁ、わたしが知らないだけで、当然居るだろうな。

またもや多少妄想を広げつつ、電車に揺られた。

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