例えば危ない橋だったとして

11月に入り、秋も深まって来た。
朝晩はずいぶんと寒い。

月曜日の現場事務所の件以外は、難しい案件もなく、今週も金曜日を迎えた。
特に取り乱すこともなく、わたしは仕事に従事出来ている。

あれから黒澤くんとは、例によっていつも通りだ。
当たり前か、彼女でも何でもないんだから。

今日は誰かと飲みに行くんだろうか。
昼休み、考えながら廊下を歩いていると女子トイレから話し声が漏れ聞こえ、中へ入ろうとした足を止めた。

「最近黒澤さんの周りちょろちょろしてる……隣の席の子、怪しくない?」
「何だっけ、さ……榊さん?」

「なんか結構遅い時間に居酒屋から出てくるの見たって、5階の子が言ってた」
「えーっ、黒澤さんにあんな子似合わないよ! 隣の席なのを良いことに取り入ろうとしてんじゃないの」

わたしはそのままUターンして、なるべく足音を立てないように部屋の前まで戻った。
まさかわたしが噂話の対象になろうとは……。

部屋に入るか躊躇していると、後ろから声を掛けられた。

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