例えば危ない橋だったとして
「うわー、綺麗……」
夜の水族館は、昼とはまた違った雰囲気なのだろうと、感じられた。
薄暗い水槽で泳ぐ魚たち、ゆらゆら揺れる水とうっすらと差し込む光の動き……とても幻想的で美しい。
振り返ると、黒澤くんは穏やかな微笑みをわたしに向けた。
なんて優しい笑顔なんだろうと、胸が締め付けられてしまう。
「あっ、この魚可愛いね」
「榊好きそうだな」
水槽を指差すと、黒澤くんが後ろから覗き込んで続けた。
薄々感じていたが、きっとこの間の居酒屋でわたしが魚に反応したことを覚えてくれていたんだろうな。
こんな健気な人だったんだ……?
そんな思いが胸に浮かぶと、衝動的に愛おしさが込み上げて、泣きそうな気持ちになってしまった。
「……黒澤くん、ありがとう。わたしが魚好きだと思って、連れて来てくれたんでしょ?」
魚から視線を黒澤くんへと移すと、少し照れたような面持ちで、今度は彼が魚へと視線を移した。
「まぁ……うん、良かった」
その全然完璧じゃないたどたどしい返事に、わたしの顔には、自然に笑みが零れた。