例えば危ない橋だったとして

金曜日、昼前になってようやく協力会社の東條さんが捕まった。

『移動は本当にすぐ隣なんですよ。横に据えるだけ、という感じです』

わたしは達成感と共に黒澤くんに報告した。

「黒澤くん、現場事務所の件やっと確認取れたよ! ほんとすぐ横に据えるだけなんだって」
「オッケー、そしたら2件分登録済ませて営業さんに説明しといて。設備構築終ったら乗せ変える話」

「わかった」

営業さんに連絡を入れると、割合あっさり納得して貰えたようだった。
2ヶ月後と思われていた工事が進められるのだから、彼らにとっては良い報告だ、当然か。


2件分の説明を終えて、電話を置いた。
わたしは息をついて、椅子の背もたれに体重を掛ける。
近頃、この仕事にやり甲斐を感じ始めた。
内容がすこぶる難しく、へこたれそうになることもあるけれど、良い充実感を持てている。

それというのも、黒澤くんがきっちりと指導してくれているから……。
わたしは隣の人を盗み見た。
真剣な表情は凛々しく、スマートだ。
もちろん頼り甲斐があるけれど、垣間見える素顔からは弱さも感じられる。
この部署に異動して来てからの、様々な黒澤くんの表情が、脳裏に浮かんでは消えた。

< 72 / 214 >

この作品をシェア

pagetop