例えば危ない橋だったとして

「……3年になるかな。母親が……」

黒澤くんは静かに話し出してくれた。
わたしは緊張感に体を強ばらせながら、じっと耳を傾ける。

「倒れたんだ。今は、病院を転々としてて……」
「……そうだったんだ……あの、ご病気なの?」

「……頭の血管が切れて……いわゆる脳卒中。障害が残ったから……半身不随で、要介護の状態」

衝撃的な告白に、気持ちが動転した。
母親って、お母さんだよね……わたしは自分の両親を思い浮かべた。

親というのは、元気で、少しお節介で、絶対的な存在のように思えていた。
そうじゃない。わたしはもう大人で、親は良い歳で、絶対じゃなくなる可能性はいつだって潜んでいる。

3年前というと、就職が決まった頃だろうか。
きっとその頃から、黒澤くんはずっと抱えて来たんだろう。
弟さんもいて、お父さんと3人、力を合わせて……。
黒澤くんは責任感が強いから、辛い時もあっただろうな……。

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