例えば危ない橋だったとして
頭の中に巡らせていると、黒澤くんが口を開いた。
「……だから、楽しくないって言ったのに」
「ちが、ごめん……黒澤くん、頑張って来たんだなって思って……。辛かったね……」
声色に緊張が滲んだ。
黒澤くんの表情が歪む。眉間を寄せて、瞼を伏せた。
またわたし、まずいこと言ったかな……。
「あの……気を悪くしてたら、ごめん……」
「……そうじゃなくて。なんか、恥ずかしい」
黒澤くんが再び、窓の外へ視線を落とした。
確かに、大人の男の人が母親の話とか家族の話なんて気恥しいかもしれない。
「でも……」
黒澤くんが口を開いたので顔を上げた。
「……榊が居てくれて、良かった。」
視線だけをわたしに移し、言葉を放った。