例えば危ない橋だったとして

更にぼろぼろと涙が溢れて来た。
わたしは必死で首を横に振った。

黒澤くんが表情を歪め、口を噤む。

違う……誤解しないで


「……やめようか」


恐れていた言葉が、黒澤くんの口から漏れた。
わたしは目を見開いたまま、固まっていた。

「……無理しないで良いから……」

黒澤くんの言葉に、上手く出て来ない声を、精一杯振り絞り返した。

「……無理なんか、して ないよ……?」


黒澤くんがわたしに背を向けて、ベッドの端に腰掛けた。
わたしは上半身を起こしながら、嫌な予感がしていた。
ドクンドクンと、自分の脈が聞こえる。

黒澤くんが大きく溜息をついて、天井を仰いだ。
その表情は、わたしからは見えない。

「やっぱり、無理があったよな。榊は、恋人にならないってはっきり言ってたのに」

黒澤くん、何を言ってるの?

「俺が、無理強いした」

違う。そんなこと思ってない。

「でも俺は……一緒に居たら、色々したくなっちゃうからさ……」

太ももの上で握った手が小刻みに震えているけれど、身体が動かない。


「ちょっと、限界。もうふたりで会うの、やめよう」

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