マザコン彼氏の事情
1
彼と出会ったのは三ヶ月前。
転職先の会社で、営業社員として働いていた彼。
ワックスで整えられているのか、ツンツンと立った艶のある短髪は清潔そうに見え、背は高く、イケメン好きのわたしのレーダーにすぐに引っかかった。
どうにかお近づきになりたいとチャンスをうかがっていた矢先の事。
三ヵ月の試用期間が終わり、わたしの歓迎会を開いてくれた席で偶然にも隣に座ってくれた彼。
それだけでテンションが上がって、お酒には強い方だったんだけど、ハイに成り過ぎてしまったわたし。
「重見さんってイケメンですよね~。わたし重見さんの事、好きかも~」
の一言で、周りの空気が一変した。
えっ?
何?
わたし、何かいけない事言っちゃった?
あ、もしかしてこの中に彼女がいたとか?
事前調査では、彼はフリーだという事になっていたんだけど?
この場をどう取り繕おうかと考えたけれど、アルコール漬けの頭はクラクラするばかりで上手く働いてくれない。
おまけに大ざっぱな性格も手伝って、言ってしまったものは仕方ない。
開き直ったわたしは、「何? 重見さんカッコいいじゃないですか? ねぇ、吉田さん」と、目の前の席にいた女の子-----事務所で隣の席のひとつ年下の子-----に助けを求めた。
彼女もイケメン好きで、パソコンの壁紙は大好きなアイドルに設定したりしている。
そんな彼女だから、きっと同意してくれるはず。
「そ、そうですね。顔は確かに」
「何よ、他もカッコいいじゃない。笑顔も素敵だし、よく気が付くし、女性にも優しいし」
「ええ、まあ」
歯切れの悪い返答と、周りの人の何だか冷たいような同情するような視線で、わたしのテンションも急降下。
何?
彼には何か秘密があるの?
そんな疑問を払拭してくれたのは彼自身だった。
「僕、マザコンだからね」
「へ?」
「みんな引いちゃうんだよね」
マザコン?
世の男性の殆どは、マザコンではないのだろうか?
程度にもよるけど、みんなお母さんのお腹から生まれてくるんだし、お母さんを大切に思う事って素晴らしいじゃない。
それが、みんなには理解出来ないっていうの?
「マザコン、いいじゃないですか。お母さんを大切にするって素晴らしい事だと思いますよ」
ちょっぴり盛り返したテンション。
と言うか、マザコンを馬鹿にするみんなにカチンときた。
「岡嶋さん、こいつのマザコン度は相当なもんだよ」
「そうそう。やめときなって」
重見さんが自ら告白した事で、隠さず何でも言っていいと判断した先輩達が止めに入った。
「やめるもなにも、重見さんにも好きな女の子のタイプってあるでしょ? いくらわたしが好きだと言っても、彼の好みだとは限らないし」
「そんな事ないよ。岡嶋さん、僕の母に似てるとこがある」
「わー出たよ。重見のお母さんと重ね合わせる癖」
「岡嶋ちゃん、悪い事は言わない。こいつだけはやめときなって。何なら俺はどう?」
「あ~、すみません。中村さんはちょっと」
「わーいきなり振られた」
「まあまあそんなに凹むなよ。それにお前、彼女いたんじゃなかったっけ?」
「そうだ。いたんだ」
「何だよそれ。彼女が可愛そうじゃん」
「やべっ」
そんな会話が散々続き、会は三時間でお開きとなった。
「それじゃ、また来週」
「重見、岡嶋ちゃんの事、ちゃんと送れよ」
「わかってますよ」
「じゃあな」
「それじゃ皆さん、今日はありがとうございました。また来週から仕事頑張ります」
「岡嶋さん、気をつけて」
「はい」
気をつけて……という言葉にさほど注意を払っていなかったわたし。
だけど、その後……
転職先の会社で、営業社員として働いていた彼。
ワックスで整えられているのか、ツンツンと立った艶のある短髪は清潔そうに見え、背は高く、イケメン好きのわたしのレーダーにすぐに引っかかった。
どうにかお近づきになりたいとチャンスをうかがっていた矢先の事。
三ヵ月の試用期間が終わり、わたしの歓迎会を開いてくれた席で偶然にも隣に座ってくれた彼。
それだけでテンションが上がって、お酒には強い方だったんだけど、ハイに成り過ぎてしまったわたし。
「重見さんってイケメンですよね~。わたし重見さんの事、好きかも~」
の一言で、周りの空気が一変した。
えっ?
何?
わたし、何かいけない事言っちゃった?
あ、もしかしてこの中に彼女がいたとか?
事前調査では、彼はフリーだという事になっていたんだけど?
この場をどう取り繕おうかと考えたけれど、アルコール漬けの頭はクラクラするばかりで上手く働いてくれない。
おまけに大ざっぱな性格も手伝って、言ってしまったものは仕方ない。
開き直ったわたしは、「何? 重見さんカッコいいじゃないですか? ねぇ、吉田さん」と、目の前の席にいた女の子-----事務所で隣の席のひとつ年下の子-----に助けを求めた。
彼女もイケメン好きで、パソコンの壁紙は大好きなアイドルに設定したりしている。
そんな彼女だから、きっと同意してくれるはず。
「そ、そうですね。顔は確かに」
「何よ、他もカッコいいじゃない。笑顔も素敵だし、よく気が付くし、女性にも優しいし」
「ええ、まあ」
歯切れの悪い返答と、周りの人の何だか冷たいような同情するような視線で、わたしのテンションも急降下。
何?
彼には何か秘密があるの?
そんな疑問を払拭してくれたのは彼自身だった。
「僕、マザコンだからね」
「へ?」
「みんな引いちゃうんだよね」
マザコン?
世の男性の殆どは、マザコンではないのだろうか?
程度にもよるけど、みんなお母さんのお腹から生まれてくるんだし、お母さんを大切に思う事って素晴らしいじゃない。
それが、みんなには理解出来ないっていうの?
「マザコン、いいじゃないですか。お母さんを大切にするって素晴らしい事だと思いますよ」
ちょっぴり盛り返したテンション。
と言うか、マザコンを馬鹿にするみんなにカチンときた。
「岡嶋さん、こいつのマザコン度は相当なもんだよ」
「そうそう。やめときなって」
重見さんが自ら告白した事で、隠さず何でも言っていいと判断した先輩達が止めに入った。
「やめるもなにも、重見さんにも好きな女の子のタイプってあるでしょ? いくらわたしが好きだと言っても、彼の好みだとは限らないし」
「そんな事ないよ。岡嶋さん、僕の母に似てるとこがある」
「わー出たよ。重見のお母さんと重ね合わせる癖」
「岡嶋ちゃん、悪い事は言わない。こいつだけはやめときなって。何なら俺はどう?」
「あ~、すみません。中村さんはちょっと」
「わーいきなり振られた」
「まあまあそんなに凹むなよ。それにお前、彼女いたんじゃなかったっけ?」
「そうだ。いたんだ」
「何だよそれ。彼女が可愛そうじゃん」
「やべっ」
そんな会話が散々続き、会は三時間でお開きとなった。
「それじゃ、また来週」
「重見、岡嶋ちゃんの事、ちゃんと送れよ」
「わかってますよ」
「じゃあな」
「それじゃ皆さん、今日はありがとうございました。また来週から仕事頑張ります」
「岡嶋さん、気をつけて」
「はい」
気をつけて……という言葉にさほど注意を払っていなかったわたし。
だけど、その後……
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