マザコン彼氏の事情
 しばらくして、龍くんはまた出掛けて行った。
 夕方会う約束をしている人がいるらしい。
 今日も遅くなるのかな。

「お疲れ様です」

 元気な声に振り向くと、オフィスの入り口から大股一直線にこっちに向かって来る栗原くんがいた。

「岡嶋さん、やりましたよ。注文取れました!」
「本当? 凄いね。二日連チャンなんて」
「はい。気合入れてました。あの、今朝言ってたた件ですが」
「えっ?」
「はい。二日続けて取れたら、聞いて欲しい事があるって」
「いいよ。何かしら?」
「ここでは話せません。今晩付き合ってもらえませんか?」
「えっ?」
「食事に付き合って下さい」
「うん、いいけど……」

 いいのかなぁ。
 龍くんがいるのにいいのかなぁ。
 別に食事ぐらいいいよね?
 だけど、真保ちゃんの気持ちを知った今、やっぱり二人はまずいでしょ。

「ねえ、真保ちゃんも誘っちゃダメ?」
「えっ?」
「昨日、栗原くんが大口の注文取って来たって言ったらね、真保ちゃんも凄く喜んだんだよ。だから三人でお祝いしよっ」
「吉田さんが?」
「そう」

 あれっ?
 ちょっと赤くなってる?
 真保ちゃんが席を外してる間に、わたしから言っちゃおうかな?
 真保ちゃんもあなたの事が好きなんだよーって。

「ちょっと一緒に来て下さい」
「あ、ちょっと!」

 いきなり栗原くんから腕をつかまれ、わたしは廊下に連れ出されてしまった。
 そこに、トイレから帰って来た真保ちゃん。
 栗原くんは真保ちゃんを通り越して、わたしを廊下の突き当たりにある非常口へと誘(いざな)った。
 倒れないようにバランスを保ちながら、後ろを振り返る。
 そこには、不安そうに立ち尽くした真保ちゃんがいた。

 非常口の外に出る。
 後ろで重い扉が閉まった。

「ちょっと、一体何なのよ」
「すみません」
「話って何?」

 彼の乱暴な態度に少し言葉が強くなる。
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