マザコン彼氏の事情
「すみません」

 それだけ言って、続きの言葉を待つけど、なかなか言う気配が無い。
 どうしたの?
 
「栗原くん?」
「俺、岡嶋さんが好きです」
「えっ? わ、わたし?」

 栗原くんの口から紡ぎ出された言葉が、想像していたものと違って言葉に詰まってしまった。
 真保ちゃんじゃなくって、このわたしなの?
 
「でも、俺年下だし告白する勇気がありませんでした。だから、自分の中で起爆剤になるものが欲しかった。それで、大口の契約を二つ取れたらって目標を立てたんです。岡嶋さん、俺と付き合って貰えませんか?」

 栗原くんは、わたしが龍くんと付き合ってるって知らないんだね。
 どうしよう。
 告白されて、断るって初めての経験。
 だけど、正直に断るしかないんだよね?

「ごめんなさい。わたし、重見さんと付き合ってるの。だから、あなたとは付き合えない」
「重見さんと?」
「うん。あ、でもね、あなたが頑張ってる事はよくわかってる。重見さん、今度の営業会議でわたしが栗原くんの担当になるよう押してみるって言ってた。そうなれば、仕事上でももっと関わりが多くなるし、精一杯力になれるよう頑張るわ。……それじゃダメかな?」

 どう言ったらいいんだろう。
 どう言っても、君を傷つける事には変わりないよね。

「わかりました。でも俺、諦めませんから。岡嶋さんが担当になってくれたら、もっと頑張りますから」
「うん……」

 それでもあなたに気持ちが傾く事は無いわ。
 ごめん。
 わたしは龍くんの事が好き。

 重い扉が再び開くと、さっきまでの勢いとは反比例する形で、肩を落としてうつむき加減で歩く栗原くん。
 その先には、時が止まっていたんじゃないかと思えるくらい、さっきの場所から動かず立っている真保ちゃんがいた。

 どうしよう。
 何て言ったらいいんだろう。

「吉田さん、今日三人で食事に行きませんか?」
「えっ?」
「大口契約を二日続けて取った記念です」
 
 呆然としている真保ちゃん。
 ここは、この二人をくっつけるチャンスかも。

「真保ちゃん、行こう。栗原くん、その話をする為にわたしを呼び出したのよ」
「そうだったんですか? 凄い勢いだったから、何事かと思っちゃいましたよ。是非、行きましょう」

 
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