マザコン彼氏の事情
「おはよう。くるみ」

 オフィスに入るとすぐ、龍くんが自分の席からやって来た。

「おはよう」
「夕べは遅かったんだね」
「ごめんね」
「別に謝る必要は無いよ。でも、栗原と一緒だなんて、珍しい組み合わせだね」
「彼、二日続けて大口契約取って来たでしょ。その記念にって真保ちゃんとわたしを誘ってくれたの」

 あえて、真保ちゃんの名前を先に出した。
 わたしはおまけって感じを出す為に。
 別にやましい事は何一つ無いんだけど、それでも栗原くんの気持ちを知ったら、龍くん良い気持ちはしないでしょ。

「へぇ、そうなんだ。あ、そうそう。今日たぶんチーフから言われると思うよ」
「何を?」
「くるみを、栗原の担当に推薦するって言ってただろ」
「ああ。でもわたし、龍くんの担当になりたかったな」
「僕の担当は吉田さんがしてくれてるから」
「そ、そうだよね」
「まあ、二年に一回位担当替えがあるから、次はくるみになって欲しいよ」
「ありがと」
「それじゃ、戻るよ」
「うん」

 龍くんの予告通り、朝のミーティングで、わたしはチーフから栗原くんの担当になる事を告げられた。
 二年後、わたしと真保ちゃんの担当がそっくり入れ替わる事を願う。

「岡嶋さん、吉田さん、おはようございます」
「栗原くん、昨日はご馳走様でした」
「あんなに高いコース、ご馳走になっちゃって。今度はわたしがご馳走する。そこの天翔にでも行きましょう」
「吉田さん、天翔に行ったりするんですか?」
「何? わたしが行ったら変?」
「いやーちょっとイメージ出来なかったんで」
「それ、どういう事? わたしのイメージって何?」
「えっと、昨日行ったイタリアンとか、フレンチレストランとか?」
「そうでしょ~。わたしも真保ちゃんにはそんなお店が似合うと思ってたの。でも、こないだ天翔に連れてってもらったんだけど、真保ちゃんと飲むのってすごく楽しかったよ」
「そうなんですか? それじゃ、今度、是非」

 真保ちゃん、小さくガッツポーズ。
 頑張れ、真保ちゃん。
 
「岡嶋さん、俺の担当になってくれる件聞きました。今後とも宜しくお願いします」
「お役に立てるよう、努力します」

 何故だか敬語で話してしまう。
 意識しないようにしてるつもりだけど、ちょっぴりぎこちない。

「今日も頑張って契約取って来ます。それじゃ」
「行ってらっしゃい」
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