マザコン彼氏の事情
 それからも、何かにつけ電話を掛けて来るようになった栗原くん。
 もちろん仕事に関する用事なんだけど、夕方帰って来てから直接言っても間に合う用件まで、昼間のうちに電話して来る。
 他の営業さんも、受注担当者にこんなに電話して来るのかなぁ?
 わたしはまだ、栗原くんしか担当してないので比べようが無かったけど、電話を取っている人を観察する限り、お客様からの連絡がほとんどに見える。

「岡嶋さん、二番に栗原くんからよ」
「あ、はい」

 今日はこれが三回目。
 午後しか掛かって来ないからいいけど、めちゃくちゃ多忙な午前中だったら勘弁してよと言いたくなる。
 そこは、彼も気を遣ってくれてるのかも。

 用事が終わり、受話器を元に戻す。
 と、隣の席の真保ちゃんが、椅子だけ寄せて近づいて来た。

「岡嶋さん、栗原くんきっと、岡嶋さんの声が聞きたくて電話して来てるんですよ」
「真保ちゃん……」

 真保ちゃんがそんな事言うとは思わなかった。
 好きな人が、仕事とはいえ頻繁に電話して来るのを見て、傷付かないんだろうか。
 わたしだったらちょっと嫉妬しちゃいそう。

「岡嶋さん、わたしに気を遣わなくていいですよ。そりゃー岡嶋さんがフリーならちょっと焦りますけど、あなたには重見さんって言う彼氏がいるんですもの。大丈夫。わたし、平気ですから」

 そう言ってくれて安心した。
 わたしは龍くんの彼女。
 栗原くんとは、会社の良きパートナー。
 それに二つも年下なんだもん。
 恋愛対象にはならない。



 

 
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