マザコン彼氏の事情
 金曜日の朝が来た。
 今日が終われば明日と明後日はお休みだ。
 明日は龍くん、土曜日出勤でお客様との打ち合わせがあるって言ってたから仕方ないけど、日曜日、会えないかな?
 わたしからデートに誘ってみよう。

 そう心に決めた矢先。
 昼休みに真保ちゃんと食堂でお弁当を食べている所へ、珍しく龍くんがやって来た。

「くるみ」
「龍くん、お帰りなさい。昼休みに戻るなんて、珍しいね」

 龍くんは、朝出掛けたら、ほとんど夕方まで戻らない。
 それどころか、夜の打ち合わせが入っている時は、直帰という場合もある。
 そんな彼をこうして昼間に見られるのはレアだった。

「重見さんがお昼に戻るのって珍しいですね」

 真保ちゃんもやっぱりそう感じていたんだね。

「お昼は? 何か買って来ようか?」
「いや、またすぐ出掛けるからいいよ。ところで、今晩空いてる?」
「えっ?」
「今日は早く上がれそうなんだ。良かったらどこかで食事して帰らない?」
「うん、いいよ」

 突然のお誘いに胸が高鳴る。
 彼と付き合い出して、こうして誘って貰ったのは初めてだった。
 行く行く。
 もし先約があったとしても、それを断ってでも、龍くんと一緒にいたい。

「良かった。ごめんな。前もって約束出来なくて」
「仕方ないよ。夜しかいないお客様もいるしね」
「ああ。それじゃ急いで帰って来るから」
「慌てなくてもいいよ。何時まででも待ってるから」
「うん。それじゃ後で」

 それだけ言うと龍くんは、食堂から出て行った。
 
「いいなー、デート」
「うん。素直に嬉しい。だって初デートだもん」
「えっ? こないだの日曜日はしなかったんですか?」
「うん。まだ、携帯番号も知らなかったしね」
「てっきり金曜日のうちに連絡先交換はされたのかと思ってました」
「そうでしょー。ちょっと不覚だったわ」

 あの日は突然キスされて、危うく(?)いや、今思えばあのまま抱かれていたとしてもおかしくない状況まで行って、初めてづくしでそこまで頭が回らなかった。
 良し決めた。
 今晩絶対に日曜日にデートしようと誘ってみる。
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