マザコン彼氏の事情
「まあ。それじゃあなたが龍くんの彼女さん?」

 母親の優しい瞳にはっと我に返った。

「は、初めまして。わたくし岡嶋くるみと申します」
「龍の母です。話には聞いていたのよ。彼女が出来たって。ねえどうかしら? わたしも丁度喉が渇いてたの。一緒にお茶しましょうよ」

 という事で、わたし達は喫茶店に向かう事になった。

「何でお前も付いて来るんだ」

 四人掛けのテーブル。わたしとお母さんが並んで、わたしの斜め前に龍くん、そしてわたしの目の前に栗原くんが座った。
 栗原くんに対して、明らかに不機嫌な表情を浮かべる龍くん。
 もしかして、やきもち焼いてくれてる?

「いいじゃないの。あなたの会社の方でしょ。お母さんも話してみたいわ」
「お待たせしました」

 テーブルにコーヒーが運ばれて来た。
 早速お母さんと栗原くんが口を付けた。

「岡嶋さん、飲まないんですか?」

 手を出さないわたしを覗き込むように見つめる栗原くん。

「わたし、猫舌なの。ちょっと冷めてから頂くわ」
「あら、龍くんと同じね。この子も猫舌なの」
「熱っ」

 反抗するかのように熱いコーヒーを口にするも、やっぱり龍くんは飲めなかった。
 思わず笑ってしまう。
 だけど、まだ龍くんは不機嫌そう。

 その後、お母さんは教えてくれた。
 腱鞘炎で重い荷物が持てない事。
 だからこうして、日曜日にまとめ買いをして、息子に持って貰っている事を。

「ごめんなさいね。わたしがデートの時間を奪ってしまって」
「いえそんな。あの、良かったら今度わたしにも手伝わさせて下さい」
「ありがとう。それじゃ来週の日曜日、うちにいらっしゃい」
「母さん、今度の日曜日はくるみとデートする約束をしてるんだよ」
「いいじゃない。うちでデートすれば」
「それ、デートって言わないよ」
「龍くん、わたし行きたい。是非お邪魔させて下さい」
「嬉しいわ。そうだ。良かったら、栗原さんもどうかしら?」
「いえ、僕は用事がありますので」
「あら残念ね。じゃあまたいつか」
「ありがとうございます」

 喫茶店を出たわたし達は、また出会った時と同じペアに別れて、違う場所へと歩みを進めた。
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