マザコン彼氏の事情
 あれから一週間。
 今日は、龍くんの家にお邪魔する日。
 幸い天気も良かった。
 白いノースリーブのワンピースに、グリーンの七分袖のカーディガンを羽織る。
 日傘を差して外に出たけど、今日の日差しは強烈だ。
 
 駅まで十五分の道のりを歩き、駅地下で手土産を選んだ。
 龍くんに、お母さんの好みを聞いておくんだった。
 早めに家を出たはずなのに、気が付けば乗る電車の時間が迫っていた。

 あーもう、これにしよっ。
 散々悩んだ挙句、買ったのはラスクの詰め合わせだった。
 まあ、これだと日持ちもするし、嫌いな人っていないよね?
 半ば自分に言い聞かせるように、紙袋を手にするとホームに急いだ。

 ホームに着くと、丁度電車が入って来たところだった。
 ふぅ。
 セーフ。

 日曜日の電車は、通勤客の姿はあまり無くて、家族連れが多かった。
 みんなどこに行くのかな?

 龍くんのうちの最寄の駅は、ここから五駅先。
 駅まで迎えに来てくれる事になっている。
 そこからは、うちと同じように歩いて十五分ほどだそうだ。
 やっぱり駅から近いと便利が良い。

 
「ごめん。待った?」
「いや」

 改札口を抜けると、すぐに彼を見つけた。

「日陰で待ってくれれば良かったのに」

 ずっと日向に居たのか、ちょっと顔が赤くなっている。

「ここの方が、君をすぐに見つけられると思ってさ」
「ごめんね」
「それじゃ、行こうか」
「うん」

 ゆっくり歩き出す彼。
 わたしは少しだけ後ろから付いて行く。
 そんなわたしを振り返った彼の手が伸びて、わたしの手を握ってくれた。
 ちょっとした事が嬉しい。
 龍くんの手って、大きいね。

 駅から右に折れて、緩やかな坂をのぼって行く。
 この辺は閑静な住宅街だ。
 緑も多くて住みやすそう。
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