マザコン彼氏の事情
「座ってちょうだい。今、アイスコーヒーでも入れるわね」
「お構いなく。あ、すみませんこれ、良かったら」

 危うく出し忘れるところだった。
 わたしは買って来たお土産を紙袋から取り出すと、キッチンに向かおうとしていたお母さんに手渡した。

「あら、気を遣わなくても良かったのに。ま、ここのラスク美味しいのよね~」
「お好きですか? 良かった。何が良いか相当迷っちゃいました」
「わたし、好き嫌いはないの。この子もね。だから、悩まなくて大丈夫よ」
「母さん、それじゃまた次を期待してるように聞こえるよ」
「あらやだ。ごめんなさい。本当に今度来る時は手ぶらでね」
「はい」

 龍くんのお母さんは面白い。
 わたしのお母さんが生きてたら、きっと友達になれるタイプだ。
 龍くんのお母さんを見て、ちょっぴり恋しくなっちゃった。

「くるみ、どうかした?」
「えっ?」
「浮かない顔をして」
「ごめんなさい。龍くんのお母さん見てたら、母の事思い出しちゃって」
「くるみちゃん、お母さんを早くに亡くされたそうね」

 コーヒーの準備を続けながら、キッチンの中からこちらを見ているお母さん。
 龍くん、何でも話すんだ。

「どうかしら? あなたさえ良ければ、これからはわたしを第二の母と思って」
「えっ?」
「わたし、嬉しいの。あなたみたいな娘が欲しかったのよ」
「そう言えば、もし女の子が生まれてたら、くるみって名づけたかったって、龍くんから聞きました」
「そうなの。あなたがくるみちゃんって名前だと聞いた時は、運命だと思ったくらいよ」

 くるみだったら、誰でも良かったのかな?
 わたしじゃなくても。
 そんなわたしの心を見透かしたかのように、お母さんは続けた。

「でもね、くるみって名前だから誰でもいいと言う訳じゃないのよ。あなただったから嬉しいの」

 そんなジーンと来る言葉を貰い、捻くれた考えを持った自分が恥ずかしくなった。

 美味しいコーヒーを頂き、お母さんはわたしが持って来たラスクを美味しそうに食べた。
 横から龍くんも手を伸ばす。
 つられてわたしも。

 お昼は、冷やしそうめんを頂く。
 何と、テーブルの上に置ける、自動回転そうめん流し機で。

「これ、ずいぶん前に買ったんだけどね、龍くんと二人じゃわざわざ回しても面白くないのよ。だから、あなたが来てくれて久しぶりに復活よ」
「面白いですね。これ、わたしもやってみたいと思ってたんです」
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