マザコン彼氏の事情
 その後も、龍くんのお母さんとは親しくさせて貰っている。
 LINEでのおしゃべりは龍くんとよりも頻繁。
 こないだなんか、土曜日に龍くんが仕事で居ない日に、お母さんと駅で待ち合わせしてランチに行った。
 その後洋服も見に行って、はたから見たら本当の親子に見えたはずだ。
 お母さんは、わたしより五センチほど背が低く、ちっちゃくてかわいい。
 三時には立ち寄ったカフェで一緒にパフェを食べた。
 
 そんなある日。
 水曜日から一週間連続で出張に行く龍くんから、土曜日辺りに一度、母の様子を見に行ってくれないかと頼まれ、LINEで元気なのはわかっていたけど、家に遊びに行く事にした。
 お母さんには内緒。
 ちょっとびっくりさせてやろうと、いたずら心が出てしまった。

 駅の改札を出て、何度も足を運んだ坂道をのぼる。
 途中で龍くんの隣の家の男の子、武くんに会った。
 最近彼は、わたしの事をくるみちゃんって呼んでくれる。
 活発な子で、今日もこれから友達の家に行くと言う。
「坂道、自転車飛ばし過ぎないでね」
「わかったー」
 片手運転で、わたしに向かって思いっきり手を振る武くん。
 可愛い。


 あれっ? 
 誰だろう。
 龍くんの家が見える所まで来た。
 門の所から、中を伺う怪しげな男。

「あの、この家に何か御用ですか?」

 びくっとして振り返った男は、肌が浅黒く、少しむくんだような不健康な顔をしていた。

「あ、いや」

 そう言うと、その男は逃げるように立ち去った。

「お母さん、居ますか?」

 玄関の扉はすぐに開いた。
 昼間と言っても女一人。
 鍵を掛けて欲しい。

「あらくるみちゃん、どうしたの?」
「お母さん、今変な男が門の前に。玄関には鍵を掛けて下さい。危ないですから」
「誰かしら……」

 わたしがさっきの男の容姿を伝えると、納得したように頷くお母さん。

「たぶん、元の主人よ。まだその辺にいるかしらね」

 そう言うと、お母さんは玄関にあったサンダルを履いた。

「お母さん?」
「くるみちゃん、ちょっと見てくるから、中で待ってて」
「大丈夫ですか?」
「ええ」

 不安な気持ちでリビングの窓から外を覗くと、庭の柵の外で、お母さんと話しているさっきの男性が見えた。
 若干笑顔を見せているって事は、穏便に話しているって事よね?
 元旦那さんって言ってもみんな修羅場になる訳はないか。
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