マザコン彼氏の事情
 母が亡くなって、最初は料理も出来なかったわたしの為に、父は一層懸命に料理を作ってくれた。
 と言っても、それまで母任せだった父も料理は初心者。
 段々見ていられなくなって、わたしが作ると言ってからは、また台所に立つ事は無くなった。
 
 高校に入ってからは、ある種、年の離れた夫婦状態。
 既にその時、母の苦労を身に染みて理解したわたしだった。

 そんな父でも、不器用ながらしっかりわたしを見てくれていたし、信じてくれていた。
 だから、グレる事も無く社会に巣立った。
 都会に出たのは、決して父と離れたかった訳じゃない。
 まあ、わたしの勝手な都会への憧れ。

「今度、会ってみたいな」
「うん……」

 これって、もしかして将来的にわたしとの結婚を考えてくれてるって事かな?

「ところで、昨日忘れ物して昼休みに家に戻ったんだ。そしたら母が、荷物抱えて出掛けようとしててさ、どこに行くのか聞いたら友達のお見舞いに行くっていうんだ。誰だろうと思って聞いたんだけど、親しい友達としか言わないんだ。くるみ、何か聞いてない?」

 思わずむせた。
 まずい、油断してた。
 お見舞いってもしかして、お父さん?

「聞いてないわ。お母さんと親しいと言っても、お友達の事まで話してはくれないでしょう」
「何か引っかかるんだよね。母が親しくしてる友達は何人か知ってる。名前を聞いたら、ああ、あの人かって思うんだけど、妙に濁すんだよね」
「龍くんが知らない人なんじゃない? だから、名前言っても仕方ないと思ってるだけじゃ……」
「そうだよね。でも、ちょっと気になるから、今度それとなく聞いといてくれないか」
「わかった」

 お父さんが入院したとは聞いてない。
 だから、入院したのが誰かは知らない。
 これって別に、嘘付いてる訳じゃないよね?

「おっともうこんな時間だ。送るよ」
「ありがとう」

 
 翌朝、会社に着くなり龍くんが近寄って来て、入院しているのが誰だか聞いてくれたか尋ねられた。

「夕べは遅かったから、まだ聞いてない」
「そう。じゃあ、昼休みにでも聞いといてよ」
「わかった」

 何故そんなにしつこく聞くんだろう。
 そんなに気になるの?
 勘が鋭い人だから、もしかして父親じゃないかと疑ってる?

「岡嶋さん、どうかしたんですか?」
 
 隣に座っていた真保ちゃんが、心配そうにわたしを見ていた。

「ううん、何でもないわ」
「そうですか。だったらいいんですけど」


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