マザコン彼氏の事情
 お母さんが倒れたって……きっとお父さんの看病をしてたからだ。
 わたしがいれば、何か手伝う事が出来たのに。

「岡嶋さん?」
「あ、何でもないわ。そ、それよりさ、栗原くんとどうなってるの? 今何だか親しげに会話してたけど」
「えっと、実は付き合う事にしたんです」
「本当? 良かったじゃない」
「ありがとうございます」
「何? わたしの事気にしてるの? 大丈夫。人間、恋が実る人も居れば、失恋する人もいるんだから」
「岡嶋さん、今度また飲みに行きましょう」
「いいわよ。そうだ、酔い潰れてもいいように、うちで飲まない? 今度の金曜日なんてどう?」
「岡嶋さん、どんだけ飲むおつもりですか?」
「い~っぱい」
「まったくもぉ」

 お母さん、大丈夫かしら。
 その事が気になり、今日は仕事に身が入らなかった。
 行くべき?
 もう関係無いので行ったら迷惑?
 でも、お母さんの事、心配だよ。

 
 ピンポーン。

 気が付けば、会社帰りに彼の家のインターフォンを押していた。
 部屋から明かりが漏れている。
 中にいるはず。

 カチャッ。

 姿を現したのは龍くんだった。

「くるみ……」

 一ヶ月ぶり位だ。
 こうして龍くんの顔をまともに見るのは。

「お母さんが倒れたって聞いて」
「……上がって」
「お邪魔します」
「今、寝てる。もう落ち着いたから心配は無いよ」
「顔を見てもいい?」
「どうぞ」

 部屋に案内された。

「僕はリビングに居るから」
「ありがとう」

 お母さんがベッドで静かに目を閉じていた。
 顔は頬がこけ、憔悴している。

「お母さん……」

 手を握ると、ゆっくりとその瞳が開いた。

「くるみちゃん、来てくれたのね。会いたかった。ずっと会いたかった」
「お母さん、こんなに痩せちゃって」
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