マザコン彼氏の事情
「くるみ、夕べはありがとう」

 オフィスに入ると、龍くんが傍に来た。
 まだ、何だかぎこちない。
 早く気持ちを切り替えて、普通に接したい。
 それが出来ないなら、やっぱりわたしはここを去るべきよね?

「お母さんは?」
「今朝はしっかり食事も摂れたし、もう大丈夫だと思う」
「良かった」

 会話はそれだけだった。
 わたし、何を期待してるんだろう。
 これで十分。
 お母さんが回復に向かっていると教えてもらっただけで十分。

 夕方になった。
 わたしが退社するまでに、龍くんは戻って来なかった。
 遅い時間の商談が多いので、龍くんに限らず戻って来ない営業の方が多い。
 だからこれが当たり前。
 別に、わたしを避けて帰って来ない訳じゃない。

 さてと。
 そろそろ帰ろう。

「それじゃ、真保ちゃん、先に帰るね」
「お疲れさまでした。わたし、今日は栗原くんと天翔に行く約束してるから、帰って来るまで待ってなきゃ」
「そう。それじゃまた明日」

 会社を出て駅に向かう。
 今晩は、何食べよう?
 冷蔵庫に何が残っていたか思い出せない。
 まっ、いいか。
 コンビニにでも寄って帰ろう。

 夜になっても蒸し暑さは続いていた。
 この暑さ、まだ一ヶ月以上は続くかな?
 暑い時は早く冬になって欲しいと願い、冬には早く春が来ないかと願う。
 これって、四季がある国だから思う事なんだよね。
 この暑さ寒さに耐えたら、絶対過ごしやすい季節がやって来るってわかっているから。
 一年中暑い国、一年中寒い国だったら、その気候に慣れて、耐え忍ぶ事も無いんだろうな。

 最寄の駅に着いて、帰る途中のコンビニでおにぎりを買う。
 カップ麺だったら何かストックがあるはず。
 今晩はそれで済ませよう。

 家に戻り、お湯を沸かしている時だった。

 ピンポーン。
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