マザコン彼氏の事情
 えっ? 
 今頃誰だろう。
 
 モニターで確認する。

「え、嘘。龍くん?」

 わたしは慌てて解錠ボタンを押した。

「どうぞ」

 龍くんを招き入れる。
 彼が部屋に入って来たのは、歓迎会で送って貰った時以来だ。
 もう随分前のような気がする。

「あ、これから食べる所だった?」

 テーブルに置いたコンビニの袋と、お湯を注ごうと用意していた蓋の開いたカップ麺を見られて恥ずかしくなる。

「何か飲む?」
「いや」
「……で、何か用事だったんでしょ?」
「……くるみ、親父が入院してる病院って知ってるか?」
「えっ? うん、お母さんから聞いたけど」
「教えてくれないか? 僕、会ってみようと思うんだ」
「本当に?」
「ああ。でも、一人じゃ会いにくい。こんな事頼めた義理じゃないんだけど、もし良かったら一緒に来てくれないか?」
「わたしが?」
「迷惑だよな?」
「ううん。で、いつにする?」

 土曜日。
 龍くんは仕事の途中で二時間ほど時間を作ってくれた。
 わたし達受注業務の社員は、土日は完全に休みだ。
 土曜日に出勤するのは営業部だけ。

「ごめん、待った?」
「ううん今来たところ」

 わたしは、彼が運転する営業車の助手席に乗り込んだ。

「ごめん。それじゃ、行こうか」
「うん」
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