マザコン彼氏の事情
 手術当日。
 わたしはお母さんを迎えに家まで行く。
 手術が始まるのは午前十時。
 お母さんには、十時半から始まると伝えている。
 その間に龍くんも中に入る手はずだ。

「くるみちゃん、そろそろ行きましょう」
「そうね」

 時刻は十時。
 ここから病院まで丁度三十分。
 龍くんと会う心配はもうない。

「ねえ、ドナーの人には会えないのかしら?」

 お母さんがその事をよく知らない人で良かった。
 生体腎移植のルールを知ってる人だったら、ドナーになれるのは六親等内の血族、配偶者と三親等内の姻族。
 という事は、自分が知ってる、まあ簡単に言うと親戚であるはずなのに何で教えてくれないんだろうと疑問を持つよね。

「さあ、どうかしら」
「会って、直接お礼が言いたいわ」
「いつか言えるよ、きっと」

 手術室の前に行く。
 部屋のランプが灯っていた。
 予定通り始まったんだね。
 
「くるみちゃん。本当にありがとう。龍がひどい事を言ったのに、どうしてわたしとあの人に良くしてくれるの?」
「お母さんも、お父さんも大切な人だから」
「やっぱりわたし、あの子を追い出してあなたと暮らそうかしら」
「お母さん、そんな事言わないで。龍くんは今でもお母さんの事を一番大切に思ってる」
「息子に代わって謝るわ。本当にごめんなさい」
「謝らないで。好きでやってるんだから」

 無事に手術が成功しますように。
 わたしもお母さんも、心からそう願った。

 ランプが消え、しばらくするとお父さんが姿を現した。
 わたしはお母さんに気づかれないように、そっと手術室の中に目をやる。
 もう一台のベッドに寝ている人が見えた。
 龍くん……

 お父さんはまだ眠っていた。
 手術は成功。
 麻酔が醒めるまでにはまだしばらく時間がかかるそうだ。
 お父さんに寄り添い、病室まで歩いて行くお母さん。
 数日は拒絶反応が出ないか、合併症が出ないかをよく見るためにICUに入れられる。
 約一ヶ月ほど入院し、退院後も三ヶ月位はまだ拒絶反応や合併症が出やすいので週に一、二回は通院しないといけないそうだ。
 その後も回数は減るけど、通院しながら生活リズムを整えないといけないらしい。

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