マザコン彼氏の事情
 その日、家に戻ったお母さんは、無事手術が成功した事に安心したのか、気が緩んだように早い時間に眠りに付いた。
 今日はここに泊まる。
 龍くんの許可を貰っているので、今晩は彼のベッドで眠る。
 隣に龍くんが居ない事が寂しい。
 龍くん、早く会いたいよ。


 翌朝わたしがリビングに顔を出すと、いつ起きたのか、お母さんが朝ごはんの支度をしてくれていた。

「おはよう」
「あ、おはようくるみちゃん。ゆっくり寝られた?」
「はい」
「それは良かったわ。朝ごはん出来たから、テーブルに運んでちょうだい」
「はーい」

 お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べ、わたしは仕事に出掛けた。
 お母さんには、お父さんが集中治療室を出たら、また一緒にお見舞いに行こうと話している。


 仕事前にメールを確認。
 龍くんだ。
 昨日は連絡が無かったので心配だった。
 急いで画面を開くと、メッセージが届いていた。

『くるみ、昨日は連絡出来なくてごめん。
 経過は良好。
 親父も今のところ大丈夫。
 母さんの事、宜しく頼みます。』

 短い文面だった。
 それでも無事が確認出来たのでほっとした。
 オフィスに入り、みんなにも報告した。
 みんな一様に安堵の表情を浮かべている。
 
 仕事が終わった足で、わたしは病院に向かった。
 
「龍くん」
「やあ」

 まだ多少だるそうな表情だったけど、笑顔を向けてくれて嬉しい。

「お父さんの様子はどう?」
「僕もまだ直接は会えないんだけど、上手くいったようだよ」
「そう。良かった」
「どこ切ったの?」

 龍くんはパジャマの裾をあげて、まだガーゼで覆われた傷口を見せてくれた。

「痛い?」
「うんちょっとね」
「そうよね」

 ガーゼの下にある傷口は、抜糸した後も龍くんのお腹に残る。
 だけどそれは、ひとつの命を救った名誉な勲章。
 お父さんに自分の臓器を分けてあげた龍くんって、本当に凄いと思うよ。


 







 
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