マザコン彼氏の事情
 次の日もわたしは病院に行った。
 そして次の日も。

 何か、彼女みたいに押しかけてるけど、龍くん迷惑してるかな。
 もう少し待って。
 計画が完了したら、もうこんな事しないから。
 
 そう。
 わたしはある計画を立てている。
 まだ内緒だけど。


 龍くんは、予定より早く退院した。
 いつものスーツに着替えて、出張から戻ったのを装い家に戻った。

 メールで、お母さんにはまったく疑われていないと連絡があった。
 実はまだ仕事に復帰するまで体力が回復していない彼は、朝いつも通りに出勤する振りをして、日中はネットカフェで過ごし、夜になったらまた自宅に戻る生活を始めた。
 昼間、わたしのマンションに居ればいいと提案したけどすぐに断られた。
 遠慮なのか、わたしと極力関わりたく無いのか。
 

「岡嶋さん、重見さんに電話しても大丈夫ですかね?」
「栗原くん、彼に用事なの?」
「ええ、お得意さんの事で、どうしても聞きたい事があって」
「いいんじゃない? 昼間はネットカフェで暇つぶししてるみたいだから」
「わかりました。それじゃ後で掛けてみます。あの、岡嶋さん、重見さんにはもう会ってないんですか?」
「退院してからはね」
「そうですか。何だか、薄情な人ですね。あんなに岡嶋さんの事が好きだったのに」
「いいのいいの。わたしがお願いして手伝っただけだから」

 そう言いながらも、やっぱり心のどこかがまだ痛い。
 夜、一人で居る時に、どうしようもなく切なくなるんだよね。
 龍くんとずっと一緒に居られると思ってた。
 わたしが彼に隠し事をしなかったら、こんな事にはなってなかったはず。
 今更何を言っても、離れた気持ちを元に戻す事は出来ないんだよね。


 






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