マザコン彼氏の事情
 お父さんが一般病棟に移る日が来た。
 お母さんを連れて、病院に向かう。
 龍くんも、仕事の切りが付いたら来ると言っていた。
 さて。
 やっとお母さんにドナーが龍くんだったって事を話せる。


 病室は、個室に変わっていた。
 わたし達が部屋に入ると、お父さんはテレビを観ていた。

「元気そうね」
「来てくれたのか」
「どう? 痛みはあるの?」
「ああ、まだ少しね」
「でも良かった。手術が上手くいって」
「ああ」

 拒絶反応を防ぐ為に、お父さんは免疫抑制剤というのを服用しないといけなかったけど、とても真面目に先生の指示を聞いているそうだ。
 折角息子から貰った腎臓を、大切にしたいと思っているんだと思う。
 最初お父さんは、龍くんが腎臓をあげると言った時、すぐさま拒否をした。
 罰当たりな自分に、大切な臓器を提供するなんて正気の沙汰ではない。
 そんなの貰えないと。
 だけど、龍くんは伝えた。
 お母さんにとって、お父さんはまだ居なくなってはいけない存在なんだと。
 元気になって、罪滅ぼしするつもりで、お母さんの傍にいて欲しいと。

「あ、居た居た」
「龍、あなたどうしてここに?」

 お母さんが驚いている。
 そうよね。
 龍くんは父親を恨んでいて、お見舞いにも一度も来ていないと思っていたんだから。

「龍、仕事の途中か?」
「ああ」

 龍くんは、三日前から仕事に復帰した。
 まだ完全ではないので、セーブしながら頑張っている。
 彼が居ない間に仕事を引き継いでいた栗原くんが、まだサポートを続けていた。
 

「龍、あなたここに来てたの?」
「まあね」
「全然知らなかったわ」
「母さん、実は、龍がわたしを救ってくれたんだ」
「えっ? 一体どういう事?」

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