マザコン彼氏の事情
 龍くんが片方の腎臓を提供した事を知ったお母さんは、泣きながら龍くんを抱きしめた。
 とめどなく涙が溢れている。
 思わずわたしも貰い泣き。
 お母さんの涙は、嬉しさと、息子の体を案じる母親としてのものだったと思う。

「お父さんが手術を受けている時、あなたもあそこに居たって事?」
「そうだよ」
「……くるみさん」

 来た!
 とうとう白状する時が来た。
 龍くんから嫌われちゃった時の事がトラウマになっていて、何だか凄く怖い。

「はい」
「あなた、知ってたの? 龍がドナーだって事」
「ごめんなさい。知ってました」

 頭を下げた。
 もう上げられないよ。
 どうしよう。
 ここで怒鳴られるのかな。
 龍くんみたいに、帰ってと言われるのかな。

 そんな心配をよそに、お母さんはわたしを優しく抱きしめた。
 えっ?

「ごめんね、くるみちゃん。あなたには二回も辛い目に遭わせてしまって」
「お母さん?」
「一回目はわたしが龍に、お父さんの事を内緒にしてくれと頼んで傷つけてしまった時。そして今度は龍からわたしに手術の事は黙っていてくれと頼まれてそうしてくれていたんでしょ。ごめんね。辛かったわね」

 涙と共に、押さえられない嗚咽。
 ごめんなさい。
 今は思いっきり泣かせて下さい。

「ちょっと話が見えないんだが、龍、くるみさんと結婚するんじゃないのか?」
「ああ、あれは……」
「わたしを安心させる為の嘘か?」
「まあ……」
「バカが! そんな嘘何故付いた。くるみさんをどれだけ傷つければ気が済むんだ、お前は」

 お父さんの一喝。
 あまりの迫力に、思わず涙が止まってしまった。
 お母さんに抱きついたまま様子を伺う。
 これでまた龍くんとお父さんの関係が悪化したらどうしよう。
 言わなくっちゃ。
 わたしは平気ですって。

「あのっ」
「ごめん」


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