マザコン彼氏の事情
 えっ?
 龍くん、謝ってくれてるの?

「ごめんくるみ。僕がバカだった。本当にごめん」
「い、いいのよ。気にしないで」
「くるみちゃん、もう強がるのは止めましょう。怒っていいのよ。龍が悪いんだから」
「そうだよくるみさん。あなたみたいに優しい子を傷つけるなんて、本当にバカなんだからこいつは」

 バカバカ言われてしょんぼりしている龍くん。
 何だか可哀想になった。

「何ならほら、一発殴りなさい」

 お母さん、あなたはそんな事言うイメージの人じゃないですってば。
 わー、どうしよう。
 
「母さん、くるみが困ってるじゃないか」
「あんたが言う?」
「いえ、ごめんなさい」

 再びしゅんとなる龍くん。

「龍くん、もう仕事に戻らないといけないんじゃないの?」

 その位しか思いつかなかった。
 早く龍くんをここから出してあげたい。

「そ、そうだった。それじゃ行くよ」
「わたしもそろそろ失礼します。お母さん、お父さんとゆっくり話してね」

 逃げるように病室を出た。
 走らなくてもいいのに、なぜか龍くんと二人でエレベーターの前まで走ってしまった。
 息があがる。
 エレベーターに乗り込んでも、しばらく二人ではぁはぁ言っていた。

 一階に着いた。

「家まで送るよ。真っ直ぐ帰るだろ?」
「うん。でもいいよ。仕事が残ってるでしょ」
「遠慮するなよ」
「でも……」
「病室で謝り足りなかったからさ、もう少し、詫びさせてくれ」

 龍くん……

 助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。
 ゲートをくぐり、車は大通りを西へ向かって走り出す。

「くるみ、本当にごめんな」
「いいよ、もう謝らなくても」
「どうしたら許してくれる?」
「だから、本当にもういいってば」
「何か僕に出来る償いはないかな?」

 


< 54 / 69 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop