マザコン彼氏の事情
 わたしが疑ってると思ったのか、ミラー越しに嘘じゃなくて本当に知らないと焦っている。
 わかったわかった。
 本当なんだね。


 予約した宿は、老舗旅館。
 古いけど趣があって、きっと喜んで貰えるはず。
 その隣同士の二部屋を予約しておいた。
 お母さんとわたしが同じ部屋。
 そして、龍くんとお父さんがその隣。
 本当はお母さんとお父さんを一緒にしてあげたかったんだけど、そうなると龍くんと二人って、それは気まずいでしょう。

 料理は一部屋で一緒に食べようと言う事になった。
 テーブルに、船に乗った刺身の盛り合わせが届く。
 わっ、豪華。
 もう一生こんなの食べられないかも。

「では、頂く前に、お父さんとお母さんから発表したい事があります」

 お母さんのその言葉に、背筋を伸ばす。
 一体、何だろう。

「それじゃお父さん、頼みます」
「えっ、お前が言ってくれよ」
「そう? それじゃ、わたしから言うわね。えー、わたし達、復縁する事にしました。それから、お父さんの家で一緒に暮らします」
「えっ? それじゃ僕一人になるって事?」
「良い大人何だから、一人でやっていけるでしょ」
「……それで母さんが幸せになるんだったら、僕は止めないよ」
「ありがとう」
「……おめでとう。母さん、親父」
「ありがとう」

 ああ。
 何て素敵なんだろう。
 良かった。
 二人ともお幸せに。

「それじゃ、頂きましょうか」
「はい」

 美味しい料理に舌鼓を打ちながら、日本酒も程よく回って来て、気持ち良くなった。
 来て良かった。

「くるみちゃん、お風呂、入りに行きましょうよ」
「はい」

 温泉でも有名な宿。
 露天風呂も風情があって良かった。
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