マザコン彼氏の事情
「でもさー。やっぱり不思議なんだよねー」
「何がですか?」
「岡嶋ちゃんみたいな可愛い子が、どうして重見みたいな変わった奴に惚れるわけ?」
「だーかーらー。変わり者じゃないですってば」

 何度も言われるとカチンとくる。
 何度も言うけど、マザコンのどこがいけないっていうのよ。

「俺も、早く告白するべきだった」
「えっ?」
「俺、岡嶋ちゃんの事、好きなんだよね」

 真下さんの突然の告白。
 どうしたわたし。
 もしかしてこれがモテキってやつ?

「そうだったの?」

 隣に座っていた木下さんが、口に入れたご飯粒をボロリと落とした。

「何だよ、木下。そんなにびっくりしなくてもいいじゃん」
「いやー、実は俺も」
「はぁ? お前も?」
「ああ」

 ちょっとちょっとこれは確実にモテキだ。
 ブラック企業でどん底を見たわたしへの、神様からのプレゼントかも。

「岡嶋さん、モテまくっていいな~」

 真保ちゃんが、羨ましそうに見ている。

「いや~、わたし、どうしちゃったのかな~? 今まで全然モテなかったんだけどな~」
「やっぱりモテキってあるんですね。わたしにも来るのかしら」
「何言ってるの。真保ちゃんみたいな可愛い女の子を、見逃す男子はいないよ」

 これ、本心。
 真保ちゃんは本当に可愛い。
 容姿だけじゃななく、性格も全て可愛い女の子。
 女子からも好かれるタイプだから、絶対にモテるはず。
 今のところ特定の彼氏はいないみたいなんだけど、きっとすぐに見つかるよ。

「吉田ちゃん、何なら俺と付き合わない?」
「ちょっと真下さん、今、岡嶋さんに告白したばっかりじゃないですか? 彼女に振られたからって、すぐ乗り換えられても困ります!」
「だよね~。ごめんごめん。あ、岡嶋ちゃん知ってる? 栗原も岡嶋ちゃんか吉田ちゃんのどっちかを好きみたいなんだ。聞いても白状しないんだけどな、あいつ」
「えっ?」

 あれっ?
 真保ちゃんの表情が変わった。
 これって、もしかしたら真保ちゃんも栗原くんの事が好き?

 栗原くんは、営業のホープ。
 今年二十歳になったばかりの男の子。
 あれっ? て事は、真保ちゃんってもしかして年下好み?

「まあ、吉田ちゃんみたいな可愛い女の子が、わざわざ頼りない年下男なんかに興味ないよね?」
「当たり前じゃん、吉田ちゃんはきっと俺たちみたいな頼れる年上男子が好きに決まってる」
「俺たちって、お二人とも、頼れる男子だと思ってるんだ~」
「あれー岡嶋ちゃんって案外毒舌だね」
「いえいえ、それほどでも」

 歳は三十歳だけど、決して頼れる人だとは思えない二人。
 話しやすくて、面白いところは好きなんだけど。

 そんなこんなで、四人で囲んだテーブルだけ、時間の流れが速いのではないかと思えるくらい、あっと言う間に昼休みの終わりを迎えてしまった。
 だけど、こんな楽しい昼休みもたまにはいい。
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